2007.8月 File.01

●今週の鳥肌店

茅場町
「牛幸本店」

●今週のおすすめ

茅場町
[カリーシュダ]
[新川 津々井]

●今週の裏メニュー

「英語でナンパ、僕はビートルズ」

 

 

 


イラスト: 青木健

新川という地域は、東京メトロ日比谷線八丁堀駅、または東西線茅場町駅のいずれかに属している。サラリーマン時代この界隈に取引先があり、接待でよく飲み食いしたものである。

「小野、彼女たちにビールもってて、注いでこいよ」
「ええ、ナンパですか?」
「いいから、うまくやれよ」
と隣の席にはビシっとしたスーツ姿の頭の切れそうなOLが3人。

「あのー、ビールよろしかったらどうですか?」
「ワット?」
(ヤバっ、こいつら日本人じゃねーのかよ)
「まっ、まあどうぞどうぞ」
とここまできたら引き下がれない。頭の中を混乱させながら、半ば強引に彼女たちのグラスにビール注いでゆく。

「リアリー?」
僕はただヘラヘラしながら、たまらず先輩に振り返ると、すくっと立ち上がって、
「パードン。ホワイドンチュージョインアス?」
「イッツファニー、オーケー」
(えっ、なに言ってるんだかサッパリわかんねーよ)

この先輩はハワイ出身で、 14 歳の頃に日本に来た帰国子女、英語が達者なのだ。もう1人、取引先の後輩もまた英語が得意で、合流して飲み始めたのだが、僕はまるでついていけない。

「小野、なにか軽くロックでもポップスでも歌えよ」
「軽くって言われても……」
「いいんだよ、お前しゃべれないんだから。英語の歌は外人よりうまいからさ」

仕方なく場を盛り上げるため、ビートルズのドライブマイカーを、回りの客を気にしながら熱唱すると、
「グレイト、ネクスト」
「シャルウィーネクスト?」
「ウーン、スキヤキ、キャッハッハッハッハッ」

(なんじゃそれ、上を向いて歩こう、か?)
茅場町のある飲み屋での出来事。彼女たちは外資系の証券会社に勤めるOL。3人とも、どう見ても顔は日本人だが、思いっきりアメリカ人だった。

この英語の達者な先輩は、女房子供がいるのに、どこにいってもこの調子で、果たして離婚。その後フランス人の留学生をはらませてひと悶着あり、当時大変だった。この先輩、僕がいた会社は辞めてしまったが、ちょいと名の通った会社の取締役に納まったという噂を耳にした。英雄は色を好むのだ。