年末特別企画
2007.12月 File.02

 

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photo by Shigeo Kikuchi

地方遠征では1日7食!

北島秀一(きたじましゅういち)
日本ラーメン協会副会長。1963年広島県生まれ。進学のため上京後にラーメンに 開眼。サラリーマン時代は外回り、地方出張の機会を見つけてはラーメンを食べ 歩く。「TVチャンピオン第三回ラーメン王選手権」準優勝後、1999年に「新横浜 ラーメン博物館」に転職し、主に広報・企画・情報発信を担当。2003年独立後は フリーのラーメンジャーナリストとして活動中。また携帯情報サイト「超らーめ んナビ」では「達人」として情報発信中。

小野:ふたりはどれぐらいのペースでラーメンを食べているの ?

立石:僕は月に 40 杯から 60 杯ですね。

北島:同じぐらいです。

小野:食べてるね〜。

北島:もちろん食べない日もありますよ。集中的に食べ歩く時は首都圏なら1日で5杯ぐらい。地方の場合は1日で6杯か7杯はいきますね。

立石:うんうん。

北島:地方に遠征すると、交通費と宿泊費の合計を食べた杯数で割るんですよ。たとえば交通費が往復で 20000 円、宿泊費が 5000 円だとしますよね。「1杯しか食べなかったら 25000 円だけど、 10 杯食べたら1杯あたり 2500 円になる ! 」という感じで。

小野:ラーメン算だね ( 笑 ) 。僕が1番つらかったのは、長崎ちゃんぽんの食べ歩き。7杯食べた時点で、死にそうになった……。

北島:ボリュームがあるし、スープは意外と濃いですし、お腹にたまりますよね。

小野:あれはきつかったなぁ。それはそうと、今日はオススメのお店を教えてもらおうと思うんだけど。

立石:では、スープの味ごとにいきましょうか。僕は醤油ラーメンなら荏原中延の 多賀野(たかの) ですね。日々ラーメン作りを研究していますし、行列店なんですけど偉ぶるところもありません。

小野:僕があそこで食べて「すごいな」と思ったのが、スープなんだよね。普通は動物系のスープをとった後、魚介系のスープをとるんだけど、魚介スープは劣化するんだよね。それを防ぐために、あの店は煮干しをパックに入れて、提供する直前に1杯ごと煮出すでしょ。これはすごいアイディアだと思う。香りと旨味がうまいこと抽出されてる。

立石:初めての人にも常連の人にも、それぞれに合った接客をしている点も素晴らしいと思います。僕が特別扱いされているというわけではなく、きちんとお客さん一人一人を笑顔で迎え入れてくれる。平日でも行列は必至なんですが、オープンが 11 時 30 分ですから、 11 時 15 分ぐらいまでにお店に行けばあまり並ばずにすむかもしれません。

北島:僕はちょっと豪華にラーメンを楽しめる、護国寺の ちゃぶ屋 をオススメしますね。ここのラーメンはアッサリしているんですが、ダシの奥深さや複雑さに気付くと、どこまでもひきずりこまれる味です。麺も自家製ですし、素材にも相当なこだわりをみせています。

小野:よくできてるよね〜。

北島:味ももちろんですが、“おもてなしの心”がすごいんです。さきほどの 多賀野 が普段着の「いらっしゃ〜い」というもてなしだとしたら、ここはレストランに近い。従業員の服装もビシッとしてますし。僕がすごいなと思うのは、店主があらゆる角度からラーメンを見ていることなんですよ。味だけではなく、作業環境やエコロジー、接客もそのなかのひとつですね。

立石:店主はちょっとイチロー選手に似ているんですよね。それで「ラーメン界のイチロー」と呼ばれていますが。

北島:彼は“攻・走・守”のバランスがとれているという意味でも、イチローなんですよ。“味・接客・環境”というバランス。ラーメン店の多くは営業している厨房の横で、翌日のスープの仕込みも行っているじゃないですか。でも ちゃぶ屋 では、仕込みの厨房を完全に隔離して、鶏ガラや豚ガラといった、食事中に目に入って愉快ではないものを見せないようにしているんです。 多賀野 もそうですが、都内でも随一のホスピタリティと言っていいんじゃないですかね。

“いかにも”な店は胡散臭い?

立石憲司(たていしけんじ)
1964年、豚骨ラーメンの本場、福岡県生まれる。 小学2年生の頃より、博多や久留米のラーメンの指名食いしていた。 学生時代は社会学のゼミで福岡県のラーメンに関するレポートを提出するほどのラーメン好き。 上京後、豚骨以外のラーメンに出会い、バリエーションの豊富さに驚き、さらにラーメンにのめり込み始める。 1999年1月に放映された「TVチャンピオン」(テレビ東京)の「第5回ラーメン王選手権」で優勝。以後、雑誌やテレビで活躍中。

小野:僕は こうかいぼう かな。あそこも店主夫婦の人柄と接客が極めていい。気分よくラーメンが食べられるんだよね。安心できるというか。

北島:味にとがっている部分がないんですよね。

小野:そう。何も主張していないんだけど、ほのかにパンチがある。「もう1回食べに行きたいな」と思わせてくれる。

立石:どのお店も“もてなしの心”が共通していますね。やっぱりそれは大事だと思うんです。たとえば、店主が従業員を怒鳴りつけているのを見たら、美味しいラーメンでも「あぁ、美味しいな」とは感じられないですよね。

小野:確かに食べられないよね。ほかにラーメン屋でチェックするポイントはある ?

立石:清潔感はありますね。自分だけならいいんですけど、ほかの誰かが嫌がるかもしれない要素があるのはちょっと……。

北島:三田の ラーメン二郎 は ?

立石:あそこは別格ですよ ( 笑 ) 。

小野:僕は外観の“いかにも”な感じって胡散臭く思っちゃうんだよね。

北島:それっぽい筆文字で書いてある木の看板やたらし暖簾ですか ?  あとは地方の蔵のような白壁と木の外装とか。

小野:白地に黒や赤で屋号を染め抜いたオーソドックスな暖簾の方が、僕は好きなんだけどね……。

北島: ( 笑 ) 今は店側もラーメンマニアが好むポイントを知っていますからね。僕は店主の表情を見ますね。あとは厨房に明確な指揮官がいるかどうか。

小野:核になる人がいないと、味もブレるよね。

北島:指揮官は店主でも店長でも、場合によってはバイトでもいいんです。いくら接客態度がよくても、大きな声で挨拶ができていても、全員がフラットに見える店を僕はあまりいいとは思えないんです。

立石:常連客と一見客に差をつける接客も「ちょっと嫌だなぁ」と思ってしまいますね。

小野:それも分かるなぁ。

ラーメンとは…活力&先生&大好きなもの

小野員裕(おの かずひろ)
1959年、北海道に生まれ、東京で育つ。文筆家、出張コック、フードプロデューサー。横濱カレーミュージアム初代名誉館長。 鉄の胃袋を武器に放浪先の大衆食堂、大衆酒場に足繁く出入りするかたわら、カレー伝道者としてカレーの醍醐味についての 布教を地道に続けている。著書に『東京カレー食べつくしガイド104/380店』(講談社)、『週末はカレー日和』(ぴいぷる社)、 『週末は鍋奉行レシピで』(創森社)、『立ち飲み酒』(共同執筆、創森社)、『魂のラーメン』(プレジデンド社)、『ラーメンのある町へ』 (新潮社)、『カレー放浪記』(創森社)など

北島:塩味のオススメはどこになります ?

立石:埼玉のみずほ台にある 一本気 ですね。この前、朝霞台から転居して以降初めて行ったんですが、やっぱり美味しい塩ラーメンだと思いました。

小野:今も比内地鶏を使っているの ?

立石:はい。「比内地鶏つみれそば」ですよね。これは1日 20 杯ぐらいの限定メニューなので、僕が行った時はもう売り切れていました。でも、他のラーメンも店主夫婦の温かさ、真摯さが集約されているような、スッキリした味わい。まさに店名通りです。近頃の食肉偽装になんか負けないでほしいですね。

北島:町田の 69 ‘ N ' ROLL ONE (ロックンロールワン) の塩ラーメンは「3号 V3 」というんですが、豚骨や魚介などのスープは使わないんです。鶏ガラのみ。バツグンに美味しいですよ。ただ、「お静かに」と貼り紙があるし、ちょっと店主に愛想はありませんが ( 笑 ) 。

立石:店名からは想像がつかないですよね。軽いロックが流れている、もっと気さくなイメージを持ってしまいましたけど。

北島:でも、店主を見ていると分かるんですが、本当に集中しているんですよ。ドンブリひとつとっても、絶対にガチャガチャした音をたてない。道具に感謝しながら厨房を使っているんですね。丁寧だし、清潔。そこまでの集中力を見たら、客としても文句は言えないですね。

小野:確かにそうだね。

北島:店主がひとりで店をやっているから、余計なことをやっている暇がないんですよね。両替もできないので、千円札か小銭を用意してあげて行きたいですね。

小野:じつは僕は塩ラーメンをあまり食べないんだよね。と言うのも、食べるとなんだか損をしたような気になってしまって。物悲しいというのかな……。

北島:僕は塩ラーメンも大好きですけど、なんとなくおっしゃることは分かります。以前、沖縄に1週間ほど滞在したことがあるんです。沖縄料理の味付けは、基本塩じゃないですか。何を食べても美味しいんですけど、そのうちに身体が味噌とか醤油といった発酵調味料を求めてくるんですよ。美味しい、だけどなんだか物足りないんですよね。

小野:そうなんだよね。美味しいんだけど、「食事をしたな」という気持ちになれない。でも損をした気分にならずに「塩ラーメンを食べたな」と思えるのが べんてん だと思う。厳密には塩ラーメンの範疇からは外れるのかもしれないけど。

立石:もともと最初にハマったラーメンがコッテリ系なだけに、塩ラーメンに対してそう思われるのかもしれませんね。ところで、おふたりにとって“ラーメン”ってなんですか ?すごく漠然とした質問なんですが……。

北島:ラーメンって、王道もなければ正解もないじゃないですか。だから工夫も無限大。じつは食べる側にも柔軟性を求められる食べ物なんだと思います。僕はラーメンを食べて評価しているように見られがちなんですが、提供されたものを受け入れられるか、実際は僕自身がラーメンに評価されているんですよね。そういった意味では、ラーメンは僕にとって“先生”ということになるのかな。

立石:なるほど。僕にとっては日常食であり、日々の発見であり、癒しであり、活力ですね。

小野:僕はなんだろう……。ずっとラーメンの進化を見守っていきたいとは思う。要は“大好きなもの”ってことなんだろうね。

 

 


: 店舗DATA :

【 多賀野】
東京都品川区中延 2-15-10
03-3787-2100

【ちゃぶ屋】
東京都 文京区音羽 1-17-16
03-3945-3791

こうかいぼう
東京都江東区深川 2-13-10
03-5620-4777

【ラーメン二郎 三田本店】
東京都港区三田 2-16-4
電話非公開

【一本気】
埼玉県富士見市西みずほ台 3-11-10
049-254-0601

【 69'N' ROLL ONE】
神奈川県相模原市上鶴間本町4-34-7
042-715-6969

べんてん
東京都豊島区高田 3-10-21
電話非公開