2007.6月 File.03

●今週の鳥肌店

神田「トプカ」

●今週のおすすめ

神田「藤むら」「伊勢」

●今週の裏メニュー

「神田と僕とあの娘の思い出」



 


イラスト: 青木健

恥ずかしながら 19 から 27 歳まで、ロックバンドのボーカルをやっていた頃のこと。当時、マジでプロを目指していて、女子高生のファンクラブもあり、いろいろなライブハウスを週1で精力的にこなしていた、そんな当時の話。

ある日、キーボード募集で、どこかの短大生が新メンバーとして入り、これがメチャメチャ可愛くて綺麗な娘、男所帯のゴミ溜めに、まるで天使が舞い降りてきたようだった。今のタレントに例えるなら、うーん、安田美沙子をちょいとポッチャリとさせたような感じかな? デニムのミニに、いつもごっついワークブーツ姿で、ボクはこの格好がたまらなく好きだった。

「小野ちゃん、アタシさ、神田西口の○○○ってところバイトしてるんだけど、1度お店にきてよ、こっそりおつまみ出してあげるからさ」
「えーっ、イクイク!」

もう彼女に誘われたのが嬉しくて、ありったけの金を握って、彼女の店に行ったのだ。
「わーい、来てくれたんだ、嬉しい」
ブルーのスパンコールが散りばめられた、ノースリーブのタイトなミニのワンピース、ブラックのガーターストッキングに 10 センチほどのエナメルのピンヒール。なんてイヤラシイ格好なの、この店はピンサロか? 化粧っ気のない彼女が、まるでクレオパトラのような太いブルーのアイライン(それはやり過ぎだろう?)、ブラウンのマスカラ、真っ赤な口紅、いつもツインテールにしている髪をアップにし、普段とはまるで違うその変貌ぶりに唖然としてしまった。

「驚いた、へへへ」
カワイイ! もう何十回通っただろうか、他のメンバーは、彼女が神田のキャバクラ(当時キャバクラとは言わなかった)で働いていることなんて知らなかった。僕だけの秘密って感じで嬉しかった。

ある日、日本橋岩本町にあった彼女のアパートに、とうとう泊まってしまったのだ。ドンドン、ドンドン! 朝方、ドアを叩く音で目が覚め、彼女が扉を開けると、強面の 50 がらみのオヤジが部屋になだれ込んできた。

「ミカ、お前何やってるんだ!」
彼女の父親だった。
(うわー、やべー、絶対逃げられねー)
僕は上半身裸のまま正座し、うつむいてオヤジの話をひたすら聞いていた。
結局、彼女は実家に連れ戻され、ジャンジャンって感じ。あの場面で殴られておかしかくなかった、いま思い出しても冷や汗が出る。

なぜ父親がアパートに来たかというと、静岡で土建業を営む彼の仲間が、仕事で上京してきたとき、たまたま神田で飲んでいたらしい。そのとき
「派手な女が歩いているな」
と、偶然彼女を見かけ
「おいおい、あれ、渡辺さんちのミカちゃんじゃないか?」
ということで、オヤジに報告されてしまった、という経緯らしい。

あの当時、バイトで稼いだ金はすべて使い果たし、サラ金にまで借金して彼女の店に通っていたのだ。返済するまで3年かかった。
「ミカちゃん失踪しちゃったな……」
とバンドのメンバーが心配する傍らで、僕も黙ってうなずいていた。

もう彼女も 40 歳を超えているはず、幸せな生活を送っているのだろうか。神田にくるたびに、ミカちゃんのことを思い出すのだ。