2007.9月 File.02

●今週の鳥肌店

下北沢
「鉄板焼 さわ」

●今週のおすすめ

下北沢
[一龍]
[VARIE]

●今週の裏メニュー

「僕が憧れたロック青年の話」

 

 

 


イラスト: 青木健

ロックバンドを組んだばかりの頃、新宿にあった「ジャム」というライブハウスへ下見に行ったとき、あるバンドのライブを目撃して衝撃を受けてしまった。

そのボーカルは舞台の上で、天を仰ぎながら倒れ込んだり、軽快で強烈なブラスセッションに合わせて踊りまくったりと、その姿、熱唱ぶりに「オレこのボーカルが大好きだ!」と思った。その名は「川崎ブルージーナイト」。

それから『ぴあ』で彼のライブを探してはよく見に行った。対バンは絶対に組みたくなかった。そもそもレベル、ジャンルが違うから無理だったけど、パフォーマンス、力強いボーカルと同じ舞台に立ったら、うちらが霞んでしまうからだった。僕は「川崎ブルージーナイト」のパフォーマンスを参考にして、ライブでファンを着実に増やしていった。僕が好きだった曲は「誰もがみな空を見る」、確かそんな曲名だったと記憶している。ドラムス、ギター、ベース、キーボード、アルト、テナーサックスの大所帯だったはず、どこか「RCサクセション」のライブ演出をホウフツとさせるものがあった。

大学が近所だったので、よく下北沢で過ごしていた。授業にも出ず、南口の「MINAMI」というパチンコ屋にいつも出入りしていて、負けて夕飯の金を使い果たすと、 10 人前を食べればタダになる餃子専門店があり、勝負して3連勝。4回目に訪れると顔を覚えられ、丁重に断られたものだった。

ある日、いつものように「MINAMI」でパチンコを打っていると、同じ島の隅っこに、あの「川崎ブルージーナイト」のボーカルがいるのには驚いた。それもコック服。噂では、専修大学の3年生、下北にいても不思議じゃない。そのパチンコに興じている髭面の横顔は、どう見てもその辺の兄ちゃんにしか見えないのだが、振り返ったときの鋭い目つきに存在感があり、ライブで熱演する彼そのものだった。

「どこかの店でバイトしてるのか……」

声をかけてみたいという衝動に駆られるのだが、まるで憧れの芸能人を目の当たりにした感覚で、萎縮してしまった。しばらくして店から出て行ったので、後をつけたが途中で見失い、それっきり。何回か「MINAMI」で張っていたのだが、その後1度も出会うことがなかった。その辺りから『ぴあ』でも、彼らのライブ予定を見なくなってしまったのだ。

この原稿を書きながら、何気なく「HMV」のホームページで検索したら、 1994 年にCDが発売されていて、まだ在庫ありとのこと。思わず購入手続きをしてしまったのだ。