このカレー屋は中野の「路傍」という居酒屋に訪れる、食の文筆家、クラシック音楽評論家の木幡一誠氏に教えてもらった店である。
「小野さん、いいカレー屋発見しましたよ、ぜひ食べてもらいたいな」
ということで、翌日この店を訪れた。

彼の薦める「鶏もも肉のカレー」を早速注文する。登場したカレーの様相は、鶏肉の身は細かくほぐれ、やや粘度のあるカレーソースには南インドカレーによく使用されるスタータースパイス（カレーを仕込む最初に使われるスパイスのこと）のマスタードシードが散りばめられている。

一口いただくと、滑らかな舌触りが心地よく、スパイシーなソースは仄かな甘みと、突出することのないスパイスのバランス加減がよく、油分や塩気に一瞬物足りなさを感じるのだが、徐々に口一杯に旨味が広がっていく代物だ。

店主の和田氏に伺えば、このカレーに使われているスパイスは 19種類、香りが飛んでしまうのを嫌い、スパイスはなるべくホール（原型）のまま保管し、作るときにパウダーに挽くという手の込みようだ。

１番人気は「鶏もも肉のカレー」。その他「牛のキーマカレー」、「ラム肉のカレー」もお勧めで、シーフードカレー、季節限定の野菜カレーやタンドリーチキン、シークカバブなど、豊富なメニューをそろえている。

また、土用の丑の日や正月などの特別な日に、赤字覚悟で限定カレーを提供し、客を楽しませる工夫をしている。

じわじわと来る辛さがクセになる「鶏もも肉のカレー」（￥ 800 ）。カレーメニューにはすべてサラダがつく。大盛りは 100 円増し。	和田氏ご自慢のスパイスケース。 19 種類のスパイス調合は、具材によって微妙に変えるのだとか。
全９席の店内。こだわりが随所に散りばめられたカレーを食べながら、和田氏にスパイスについて尋ねてみてもいいだろう。気さくに対応してくれる。

　

この界隈でちょいと洋食が恋しくなったら、必ず立ち寄るのが 「津々井」 である。

ここは、 ランチに 100人を超える客が押し寄せる人気店で、また 限定メニューの 「ハンバーグ丼」などもあり、開店前から行列だ。

人気メニューは「トロトロオムライス」、これは秀逸。卵と具とご飯をすべて絡めて、フライパンで焼き上げたものだが、表面がちょいとパリっと香ばしく、中身はトロトロ、この食感がたまらない、オムライスの上下にトマトソースとトマトベースのクリームソースの２種類がデコレートされ美しく、２度も３度も楽しめる。

一般的にはこの「トロトロオムライス」をメインに紹介するのが常套だが、 オーソドックスに、ご覧の「ハムオムライス」を味わってもらいたい。フワフワでトロっとした卵で包み込まれた中身は、定番のチキンライス風情、かなりのボリュームがあり、これを食べるとなぜか気分が落ち着くという代物。基本であるこの味わいを知った後に「トロトロオムライス」と、段階を踏んでもらいたいと思っている。

「オムライスを注文するお客さんは、意外に年輩の男性が多いんですよ。たぶん子供が大きくなると、食卓には上がらないメニューだからじゃないですかね」

と２代目店主の越田氏。うーん、確かにそうかもしれないないが、懐かしい味わいの中に、洋食屋としての技が見え隠れする代物だから僕は好んで食べている。また、グラタンやナポリタンもよく注文するのだが、理由は同様だ。その他「ハンバーグステーキ」は、肉の歯ごたえ確かな味わい、肉をしっかりといただいている存在感、この力強さに、ちょいと濃厚なデミグラスソースがマッチしている。

昼の予約はＮＧなので、早めに訪れることをお勧めする。

玉ねぎとライス、ハムのバランスが絶妙な「ハムオムライス」（￥ 1050 ）。８月末まで、ドライカレーのオムライス「オムドラ」（￥ 1380 ）も味わえる。	日当たりもよく、明るい店内。エントランス部分とキッチンはガラスを隔てた造りのため、越田氏の確かな仕事をじかに見ることができる。