新宿駅周辺は大雑把に、西口、東口、歌舞伎町、三丁目、二丁目に分かれる。

学生のころは歌舞伎町を中心に遊んでいが、年齢とともに、美味しい店が少ないことと、あわただしい喧騒に疲れるため、自然に遠のいてしまった。西口もまた美味しい店が少なく、高層ビルで働くビジネスマン、ＯＬを収容する色気のない居酒屋ばかりだが、「バガボンド」と言う洋風居酒屋が面白く、連夜満員御礼の有様だ。

東口も西口同様で、どこで飲み食いすればいいのか途方にくれてしまう。そう、唯一「紀伊國屋書店本店」の地下１階にある「珈穂音」のカニクリームコロッケやポークピカタは旨いぞ。それと御苑に近くには、取材拒否の洋食屋「Ｓ」があるのだが、ここのステーキ丼、シーフードフライ、ハンバーグなど、どれも文句なしの味わいだ。

また「ゴールデン街」に「青春」という古いＥＰ版を多く取り揃える飲み屋がある。ここは『フードライフ』という食の業界誌の編集者に連れてきてもらった店で、その時、絶対にあるわけがないと思いつつ、
「三木聖子の『まちぶせ』聞きたいな……」
と店主に聞くと、
「ありますよ」
とボソっとつぶやき、そのレコードがかかったのだ。

30 年ぶりに聞くその歌声に感激してしまった。『まちぶせ』は石川ひとみが有名だけど、あれはリバイバル。ＴＢＳでせんだみつお氏が司会を勤めていた「銀座ＮＯＷ」という番組で、デビューしたアイドル歌手だったが、確か１年余りで同局のカメラマンと結婚し、引退してしまった。ちょいと下膨れの顔立ちながら、クリっとした瞳、いつもポニーテールにしていた娘で、肺活量のない歌声は、高音での、ファルセットぎみのか細い声がキュートだった。それから「青春」に通うようになり、いつも懐かしの曲をリクエストしては、酔いしれている。