2007.10月 File.01

●今週の鳥肌店

恵比寿
「キッチンボン」

●今週のおすすめ

恵比寿
[Restaurant&Bar Palette]
[らーめん山田]

●今週の裏メニュー

「恵比寿の名店、番外編」

photo by Shigeo Kikuchi

すべてのメニューが申し分なし、
多くの有名人が愛する名店

色々な洋食屋、ロシア料理屋で「ボルシチ」を食べてきたけど、恵比寿の「キッチンボン」ほど、個性的で、旨味たっぷりなボルシチに出会ったことがない。

先代が中国、大連にあった「大和ホテル」の厨房にいた頃、旧帝政ロシア宮廷の料理長から、このボルシチのレシピを教わったそうなのだ。具は牛バラ肉、ジャガイモ。茶褐色のサラサラなソースには生クリーム、そしてレモンスライス。この料理に欠かせないビーツは、ソースに溶け込んでいるそうなのだ。

「ホントに美味しいですね、ところでこの独特な香りって何なんですかね?」
「それはねカルワシの実っていう、うーんハーブの一種だね」
初めて聞く食材だ。ご長男とその奥さんと弟さんで切り盛りする店内は、カウンター7席、4人席のテーブル2卓、人席2卓である。

「開店 12 時 5分って、中途半端ですね」
「5は、“ご”縁があるようにってことなの」
と奥さん。なるほと。創業は昭和 30 年。現在オーナーは話し上手な弟さん、シェフはお兄さんが務める。

「サワークリームは、ちょっと日本人には合わないんでね、生クリームにしてるんだけど、酸味が物足りなければ、そのレモンスライスをスプーンで潰して調整していただいて下さい」
と弟さん。確かにボルシチはサワークリームが定番だ。

その他、ハンバーグ、ハヤシライス、カニクリームコロッケ、チキンカレーなど、どれも申し分のない味わい。

「実はまだ、シャリアピンステーキは、いただいたことがないんですよ」
「そうなんだ、ほら、これがシャリアピンに使っている牛肉、これのバラ肉をボルシチにも使っているのよ、どお」
と、目の前に現れた赤身と脂身が美しく均等にちりばめられた、艶々な牛肉の塊。
「いや、こりゃメチャメチャ旨そうだわ」
「顔を覚えたからね、今度来たときぜひ食べてね」

歌舞伎役者、数多くの芸能人が足しげく通う「キッチンボン」。店の入り口脇では、故美空ひばりさんから贈られた、柱時計が静かに時を刻んでいる。

ご兄弟、奥さんの人柄、料理の美味しさは格別、ぜひ尋ねてもらいたい。それと、食後にいただいたコーヒー、これが実にいい。京都にある名代の喫茶店、「イノダコーヒー」をホウフツとさせるような、奥深い味わいなのだ。
日本人の舌に合う優しい味わいの「ボルシチ」(¥ 1470 )は多くの有名人にも愛されている。「カルワシ」入りのパンは 315 円(写真奥)。

「シャリアピンステーキ」は、すりおろしたにんにくと共に牛肉を焼いたもの。 8400 円と少々値は張るが、ぜひこの肉の旨味を味わっていただきたい。

先代から受け継いだ味を守り続けるお二人。あたたかい人柄もまたこの店の魅力だ。 寿司職人もうらやむという一枚板のカウンターが存在感を示す店内。料理を心から楽しむために、携帯電話は遠慮しよう。

: DATA :
【キッチンボン】
住所:東京都渋谷区恵比寿西1-3-11 ベルビル1F
JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線 恵比寿駅より徒歩3分
電話:03-3461-8538
営業時間:
12:05〜14:00(L.O 13:30)
18:00〜20:30(L.O 20:15)
定休日:
席数:19席
★シチュエーションPOINT
「自分へのごほうびランチ」